収録ウラ話

− 第二十三回放送 −
収録日 3/3(月)
今回は、完パケで起こった奇跡的な話を、やや長いけれどもご紹介。

“完パケ”とは、収録したトークや曲などの番組素材をまとめ、
一つの番組として仕上げる作業のこと。
トークや曲の時間をはかって放送時間内におさまるように調節したり
(これは前段階の編集作業でも行う)、
BGMや、かける曲をCDで流してトークと共に録音をするのである。

完パケ時に時折起こるのが、放送時間のオーバー。
トークの量が多過ぎて、曲をかけると30分におさまりきらないことがある。
この場合は編集で頭を悩ませたり、
曲のかけ方を変えることで、これまでは何とか乗り越えてきた。
(ただ、そのために曲がサビに行く前にトークをかぶせてしまうこともあった。)
だが今回は、別の緊急事態が生じてしまったのだ。

完パケを行ったのは3月8日土曜日。
異常気象とも言われたこの日は、前日からの暴風雪で辺り一面、雪が降り積もっていた。
至る所で車が雪に埋まり、路面も凸凹、車はノロノロ状態。
除雪作業も追いついておらず、少しの油断で交通事故を起こしそうなこの日、
何とかBeFM局にたどり着いた中野。
それだけでも奇跡的なことなのだが、本当の奇跡はここからだった。
(ある意味、悲劇が始まったとも言えるが。)

(『悲劇』と言えばそう、この日
 自動販売機でコーヒーを買ったら『ガタッ』という音だけで缶が出てこなかったのも
 悲劇の始まりだったのかもしれないな・・・なんてことは今は置いといて。)

完パケを始めようとした中野は、番組で流す曲をCDラックから探し出した。
だが、一曲だけどうしても見つからない。
エンディングナンバーで使おうとしていた、
クレイジーケンバンドの『GT』である。
ふっち〜がリクエストしたこの曲。
もしかしたらと思い、ふっち〜に電話をかけたところ、
「(オレが)持ってる」という返事。
急いで持ってきて、と頼んだが、
「車が出られない。」
なんと、ふっち〜の家の前の道路が雪で埋まり、
車が駐車場から抜け出せなくなってしまったのだ。

呆然とする中野。
CDが無ければ曲がかけられない。
エンディングナンバーがかけられなければ番組は完成しない。

エンディングナンバーの紹介はすでに収録してある。
その内容は、ダイジェストに書くとこうだ。

 藤村「といったメンバーでお送りしました。」
 中野「はい。」
 藤村「では、エンディングナンバー。」
 中野「うん。」
 藤村「クレイジーケンバンドのね」
 はっち「おぉ!」
 町屋「(オレも)大好き。」
 藤村「『GT』という曲をね、かけたいと思うんですけど・・・」
 (中略)
 藤村「夏っぽい、ちょっと爽やかな曲なんですけど・・・」
 中野「冬なのに。」
 全員「う〜ん・・・」
 中野「ま、春も近いということで・・・」
 藤村「いいじゃないのぉ、誰か一人の心にでも響けば。」
 全員「おぉ〜!」「うまいな〜。」
 空さん「これも“芸術”って、わけですか。」
 藤村「そうそう。そんなわけで、お送りしました。では、また来週もこの時間
 (以下略)

トークの終わりで中野が発言した
「(芸術は)誰か一人の心にでも響けばいいんだ!」
という言葉を引用して、
ふっち〜が言い訳に使ったこの件(くだり)。
番組の締めとも言える重要なこの部分は、どうしても使いたかった。
だが、完パケ時にCDが手元に無いのであれば曲も変えなければならない。
そうなると、曲紹介も録り直すため、この部分は削ぎ落とさなければならない。

「CD持って、なんとか間に合うように出発します。」
ふっち〜は、何とか家を出発したようだった。
とにもかくにも、完パケはスタートせざるを得なかった。
その間にふっち〜がBeFMにたどり着けば何も問題は無い。
中野は祈りながら、作業を進めていく。

完パケは順調に進み、ついにエンディングのコーナーに差し掛かった。
録音作業を一旦止めてふっち〜を待つ。

ふっち〜は、間に合わなかった。
悪路と渋滞に見事につかまったのだ。
中野の携帯にはたった一言、
「ムリ」というメールが届いていた。

今日中に完成させなければ、翌日の放送には間に合わない。
「何か策は無いだろうか・・・。
 曲を変えてでもコメントを残す方法は無いものだろうか・・・。」

前述した通り、
曲紹介を別録りしてしまえば解決はする。
しかしそれでは、話の流れがおかしくならないようにするために
エンディングナンバー曲を変更せざるを得なくなり、
 藤村「夏っぽい、〜
からは使えなくなる。
そうすると曲紹介の後、すぐに「そんなわけで、〜」まで飛ぶことになる。
大事なコメントについては妥協をしなければならない。

何度も、収録したトークを聞き直し、頭を懸命に働かせた。
スタジオをウロウロ歩き回り、考えに考えた。
そしておよそ5分後。
ついに閃いた。

曲紹介は別録りをした。
台詞は極めて短かめに、雰囲気が不自然にならないように注意をして録音し、
それを取り込んで番組は完成した。
実際に放送された内容は次の通り。

 藤村「といったメンバーでお送りしました。」
 中野「はい。」
 藤村「では、エンディングナンバー。」
(ここからが完パケ時の録り直し)
 中野「はい。えっと、桑田佳祐の『黄昏のサマー・ホリデイ』という曲をね、
    まぁ見事に季節外れなんですが・・・」
(以降、収録されたもの)
 全員「う〜ん・・・」
 中野「ま、春も近いということで・・・」
 藤村「いいじゃないのぉ、誰か一人の心にでも響けば。」
 全員「おぉ〜!」「うまいな〜。」
 空さん「これも“芸術”って、わけですか。」
 藤村「そうそう。そんなわけで、お送りしました。では、また来週もこの時間
 (以下略)

曲紹介の部分をそっくりそのまま
中野が紹介した、という形で録り直し、
曲も敢えて、冬に似つかわしくないものを選ぶ、ということで解決したのだ。
これで話も見事につながり、しかもなんと、アラ不思議!
中野の、ふっち〜の曲紹介をフォローする言葉が言い訳の言葉に、
ふっち〜の言い訳の言葉が、中野の曲紹介をフォローする言葉に大転換。
言葉のニュアンスが巧みに応用される結果となり、
まさしく“芸術的”なエンディングが出来上がったのだった。

ハプニングには臨機応変に対応し、
収録内容を活かしつつも新しい構成を生み出す。
これぞ、通称「完パケ職人」の真骨頂。
誰にも真似の出来ないことをやって退けるのだ!

というわけで、今回も完パケは無事終了。
誰も知らないところでこのような闘いが、時折繰り広げられて当番組は作られている。
それが果たしていいことなのかどうなのか・・・。
しかし確かに言えるのは、
「ハプニングを乗り越えることで、また一つ成長する」ということ。
まぁ、余計なトラブルはご勘弁、ではあるが。

どんなに小さな、誰の目にも耳にもとまらないようなモノでも、
作り手は精一杯の努力と情熱を込めているのだ、ということを最後に書き留めて、
今回はおしまい。
ご静聴ではなくご静読、ありがとうございました。


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